湘ゼミコラム

公立中高一貫校受検

南高等学校附属中 徹底取材/特集①「人気の理由は授業。効果絶大のラウンド制とは?」

神奈川県横浜市港南区、市営地下鉄ブルーライン「上永谷駅」から徒歩15分、閑静な住宅街に囲まれるエリアに校舎を構える、横浜市立南高等学校・附属中学校。

2012年(平成24年)に横浜市初の中高一貫教育校として設置された公立中高一貫教育校で、中学受検*・高校受検ともに高い人気を誇る学校です。
*公立中高一貫教育校の中学受検は適性検査を実施するため「受検」と表記します。

中高一貫教育校ならではの特別プログラムによる指導で、高い学力と豊かな人間性が育まれる環境が揃っています。昨今では国公立大学への進学実績をはじめ、保護者様などの口コミでも高い評価を受けているといいます。

その人気の理由に迫るべく、学校をご取材させていただきました。

圧倒的なデザインがなされた学習プログラム。最大の魅力は「授業」

横浜市立南高等学校・附属中学校(以下、南附属中)副校長の藤森先生、中高一貫校の開設から携わる梶ヶ谷先生、高校の教務主任で理科教諭の内田先生にお話を伺いました。

左から内田先生、梶ヶ谷先生、藤森副校長

東大や京大、早慶といった大学へ進学するような優秀な生徒さんが集まる南附属中ですが、一般の公立中学校との違いはどんなところにありますか?

梶ヶ谷先生:
公立中高一貫校は、学費面や公立ならではの自由な空気に魅力を感じる方が多いのだと思います。行事も盛り上がり、いろんな学校生活を楽しみながら高校入試もなくのびのびとやって、最終的には4割程度の生徒が国公立大学へ進学しているというのは大きな理由にあると思います。

藤森副校長:
一般の公立中学校とは物理的に教科の時間数が異なります。また、授業のデザインに関しても大きく異なります。中高一貫教育校では、高校受験を課題としていない為、6年間のスパンで資質を伸ばしていけるというところが中高一貫教育の良さだと考えます。

南附属中では、「国語・数学・英語」の授業を毎日行っており、文科省が定める各教科等の標準授業時数と比べるとその違いは明確です。

中学1年生の「標準時間時数」と「南属中教育課程の時間数」比較

【英語】標準 140時間/南附属中 175時間

【数学】標準 140時間/南附属中 175時間

【国語】標準 140時間/南附属中 175時間

南附属中では、文部科学省が定める標準時間時数と比べ英・数・国で385時間もの授業時数増となっています。

授業時数を多く設けているのは、いわゆる先取り教育が目的でしょうか?

梶ヶ谷先生:
俗に言う先取り教育というものではありません。

一般の中学校で学ぶ量や質を大きく上回るかたちで、各項目について深堀をしています。高校で学ぶ内容に入る前に、それらの土台になるところがかなり深堀されるイメージで中学校のカリキュラムを組んでいます。

中学時点から内容を深堀していくことで、高校での学習がスムーズに進み、結果的には高3生の段階では入試に向けての対策に多くの時間を割ける環境にあると思います。

“授業のデザイン”とは、どのような考えのもと行われていますか?

梶ヶ谷先生:
目指す学校像に「国際社会で活躍するリーダーの育成を目指す学校」としており、英語教育に力は入れていますが、総合的な学習も中高ともに特色をもって取り組んでいます。

授業をデザインする上では、知識偏重にならないような授業として、しっかり考えて言葉で意見を交わし合い、人の考えを吸収しながら楽しんで学べるプログラムを実施しています。

藤森副校長:
これらは担当の教員が思いつきのようにプログラムするのではなく、附属中として年次ごとのベースプログラムを構造的に組んで、自信をもって取り組めるようなものを用意しています。その中で自己有用感を高め、仲間づくりをしながら学ぶことを大切にしています。

さらには、研究をするための方法論も中1からしっかり学び、3年間で培ったスキルをもとに自身で進めた研究を中3で卒業論文として発表しています。

総合的学習プログラムEGGで
自己有用感を高める豊富な体験

南附属中の総合的な学習「EGG」では、体験・ゼミ・講座という3つの形式でさまざまな取り組みが行われています。その内容を抜粋してご紹介します。

EGG体験
国際交流などの様々な交流体験や人間関係づくりに係わる研修

足柄グリーンサービスにある自然の中で、ファシリテーターから出される様々な課題を解決する為に生徒同士のコミュニケーション・人間関係構築を育む

英語の集中研修では外国人インストラクターと3日間(中1の場合)を過ごし、最終日には英語でスピーチも行う

オーストラリアから来日する学生との国際交流

「イングリッシュキャンプ」では外国人インストラクターとともにチームビルディングやアウトドアスキルを身に着け、英語でのコミュニケーション力を育む

EGGゼミ
課題発見・解決能力や論理的な思考力を育成するために、その基礎となるスキルを中学生から学べる取り組み

中1生では、調査・研究・まとめ方の基礎力を養成するため、インタビューやレポート、新聞の書き方などさまざまな手法を学ぶ

中2生では、中1で身に着けた基礎力をもとに表現形式へと発展させ、芸術的な作品の制作や、WEBページの作成、ミニ論文や英語でのプレゼンまでを習得する

中3生では、培ってきたスキルを活かし卒業論文を作成してプレゼンテーションを行う

EGG講座
さまざまな分野の専門家による講座の受講や職業体験、企業訪問などの活動を通して、将来の進路選択への興味関心を引き出す取り組み

※講座は必修だけでなく、生徒自身が選択できる講座があり、より興味関心があるものを選べる

必修講座では、弁護士による法教育講座やJAXAによる宇宙開発講座、横浜市大による国際理解講座など様々な講座やワークショップを行う

ロボット講座、アニメ制作やテレビ制作の現場、ファイナンスパークや大手銀行での職場体験、JICAなど多くの魅力的な講座が揃っている

幅広いジャンルの魅力的な講座が揃う「EGG」。中3生での卒業論文は生徒自身がテーマを決めて、レポート用紙20~30枚にも及ぶ発表をしているといいます。

梶ヶ谷先生:
EGGをはじめとするプログラムでは、普段会えないような分野の方に会えるというメリットもあり、生徒たちは楽しんでやってくれていると感じます。

授業では、机上の勉強だけでなくどの教科でもペア活動やグループ活動の機会が多いので、”話し合うのが当たり前”という環境です。ですから、生徒同士が自然とプライベートでも仲良しで、「男女でもこんなに普通にペア活動やるんだね!」などと学校を見に来た方からもよく言われます。

卒論の研究では、生徒さん自身の興味関心があるものを選んでいただき、インタビューをして回ったり夏休みもあちこち動いて資料を集めたりと、みんな結構必死です…。
“自分の研究のため”と目標をもって努力しています。

学校人気の背景には、子どもの好奇心を潰さず伸ばしていくためのさまざまな取り組みが伺えます。その「授業」は、多くの卒業生や保護者の方からの高い評価へと繋がり、例年で中学・高校受検ともに高倍率が続いています。

全国の教育機関も注目する、
南附属中発の英語教育「ラウンド制」とは?

新たな英語教育手法として、全国の教育機関や大学・研究会からも熱い視線を受ける「ラウンド制」という指導法があります。一般的な教科書通りの進行と比べ、圧倒的に話せるという新たな指導法を確立したのが、なんと南附属中なのです。

「ラウンド制」とは??

中1生では、教科書の範囲に沿って文章に関連する絵を見ながらリスニングだけを約2カ月間実施。次に、リスニングした英文の通りに、単語や短文を並べ替える作業を約1カ月実施。その後、音読や穴あき問題、ライティングなども繰り返した後に会話形式で自らの言葉で説明しながら友達に伝えるというところまでの実力を付ける。
ワンステップごとに段階を経て文法・リスニング・ライティングといった学習が進む教科書内容通りの指導とは大きく異なり、聴覚から効率的なインプットをして学ぶという順序にこだわった指導法。

このラウンド制という指導法の開発から実践まで取り組まれている梶ヶ谷先生。英語教育を見直された経緯は何ですか?

梶ヶ谷先生:
英語は自分の知識として点数が取れることを目的にするのではなく、“自分のことであれば自分の言葉として英語でいくらでもしゃべれる”そういった表現を中3生までにできるようにしたいというのがこの指導法に至った最初の想いです。

これまでの指導法では、「三単現のsが抜けている」などという文法にこだわっていましたが、いざ大人になって英語力を必要とするときには、もう1度学び直すことが多いという現実がありました。

「赤ちゃんがだんだん成長するにつれて言葉を覚えていく順序って大切だよね」ということで、まずは聞くところからスタートし、間違ってもとにかくアウトプットの経験を積むこと…そのうえで正確性は後からついてくるものという理論です。

中1生の入学時には、ノートも教科書も開かずに授業がスタートするといいます。

梶ヶ谷先生:
この授業では、ストーリー性の高い教科書の最初から最後までをまずは英語で聞き、教員と絵を見ながら皆でワイワイおしゃべりしているような授業をしばらく展開します。

そこから初めて教科書を開き、ようやく音読をする頃には、すでに生徒さんは英語の音源と一緒になってペラペラと言えてしまうようになっています。
ただ、教科書の内容を何度も聞くことを修行のようにやるのではなく、授業前半のフリートークのような時間にもすごくこだわっています。

実際の授業の様子がこちら(動画)。英語の音源を聞いて、教員の表情や絵を見ながら、「これが授業??」と思うほどの大盛り上がりです!

聴覚から覚えることで、膨大な量の英語でも話せるようになるのですね。では、ライティングといった力はどのように身に着けるのでしょうか?

梶ヶ谷先生:
書く方を軽視しているわけではなく、順番にこだわっています。
「英語をたくさん聞いて、間違ってもいいからしゃべる」というのを散々繰り返した後、中1生の途中からは「間違ってもいいから素早く書く」ことを開始します。
通常の中1生では「I like tennis.」みたいなものをライティングと呼んでいるケースが多いですが、南附属中の生徒さんは最初のうちから3分でノート1枚分くらいを書きます。ですから最初はスペル間違いだらけで…。それを補正するために他の学校でもやっている書き写しというものは他校に比べるとかなり後の方でやります。音声と意味が結びついている状態から、とにかく書くことの量をこなすので、だんだんと正確性も上がっていきます。

テストなどはどのように実施されているのですか?

梶ヶ谷先生:
南附属中のテストは目的に応じた問題にしており、スペルミスはあまり減点されず、内容の評価が高いものを重視しています。
ただ、そういう視点でやっていない外部のテストや模試では、最初は英語の点数が取れないと…。しかし、「中1生が3分でノート1枚分もの英語が書ける」というところを評価していただきたいと考えています。

ラウンド制が大学や各教育機関から注目された背景には、その効果が認められた点があるかと思いますが、実際指導の効果はいかがでしょうか。

梶ヶ谷先生:
この指導法を実践してきた中3生を見ると、過去私が勤めてきた中学校で見てきた中3生よりも遥かに英語ができるという実感がありました。力試すために英検を受けた結果、準2級の取得率が全体の85%となりました。

大学入試改革により、昔のような重箱の隅をつつくような文法問題は無くなりました。長文読解でも、とにかく量に対応できる、細かなところはいいからちゃんと読める、といった風に時代も変わってきていると思います。今後も、ラウンド制はマイナーチェンジしながら継続していきます。

学校情報

学校名:横浜市立南高等学校附属中学校
所在地:神奈川県横浜市港南区東永谷2-1-1

公式サイト