湘ゼミコラム

高校受験・入試

直前期受験生の心理的ケア4~考え方の練習~

2018.12.27

こんにちは!いよいよ冬期講習ですね。日数は1週間ですが1ヶ月分の内容が詰まっています。そして受験生にとっては最後の講習、悔いのないようなフルパワーのラストスパートをかけましょう!

さて今回は、過去3回に渡ってお伝えしている受験生の心理的ケアについてのインタビュー最終回です。

ちょっと行き詰ったと感じたら、過去の分も含めて読み返してみてください。

ここまでのまとめ

今回は実践的なネガティブ感情から抜ける練習の方法についてお伝えしたいと思います。その前に、3回に渡ってお伝えしてきた内容のポイントをまとめます。

① ストレス自体が問題になるのではない

② ストレスが問題になるケースは、自然回復が難しいほど、長く重くストレスがかかり、勉強に集中できていない場合

③ 睡眠に関する異常が2週間以上続いている場合は、すぐに保護者に相談し、内科・心療内科にかかること

④ ネガティブな感情を頭の中だけでモヤモヤ考え続けてループにはまらないこと

⑤ 気分転換や気晴らしである程度軽くなれば問題ない

⑥ ネガティブ感情を生み出しているのは、状況ではなく、考え方(認知)

⑦ ネガティブ感情を生み出す自分なりの考え方の癖がある。それ気づき、変化させることで軽減することができる

⑧ 真にポジティブな人は、悪い出来事に対し、「外的」「一時的」「限定的」に考え、うまくいったときには、「自分のおかげ」「ずっと続く」「他のこともうまくいく」と考える。

ネガティブ感情のループから抜けるための5つのワーク

これら①~⑧を踏まえたとしても、どうしてもネガティブ感情のループにはまってしまう場合もあります。そんなときはネガティブ感情から脱却するための考え方トレーニングの実践ワークをしてみましょう。

以下のワークは、眺めて頭の中で考えるのではなく、必ず書き出してください。

手順1.自分の考え・認知をとらえる

まず最初に、ストレスを感じる状況で、自分の気持ちや、その裏にある考え方をとらえます。

ワーク①

自分の気持ちを書き出しましょう。(ひと言で表現できる言葉で、たくさん出しましょう)

状況:「模試で偏差値が下がった。」

自分の気持ち:「

感情を表す言葉は色々あります。「ムカつく!」とまとめるよりも、「ムカつく」の中に「がっかり」「イライラ」「悲しい」など色々な気持ちがいることに気づいてあげましょう。また、たくさん出てくるようであれば、「一番最初に感じた気持ち」「もっとも辛い気持ち」に絞ってください。

ワーク②

ワーク①の気持ちになったのは、どんな考えやイメージが頭に浮かんだからなのかを書き出しましょう。

状況:「模試で偏差値が下がった。」

考え・イメージ:「                                      」

自分の気持ち:「     

感情はひと言で表現できる単語なのに対して、考えは文やセリフ、何か場面のイメージで浮かぶことが多いと思います。

複数の考えやイメージが浮かんだ場合は、最も辛さに繋がっていそうな考え・イメージに絞ってもOKです。

感情を生み出す考え方やイメージはほんの一瞬で現われて消えてしまうので、とらえるのが難しいこともありますし、言葉にするのが難しいこともあるでしょう。そんなときは、前回の記事で紹介した思い込みのパターンを参考にしてみてください。それでも難しい場合は、思い込みのパターンを小学生向けに簡単にした次の例から、感じた感情を手がかりに探してみてください。

思い込みのパターン7種(簡易版)

①「非難」タイプ

感じた気持ち:怒り・不満

裏にある考え・認知:自分は悪くない、うまくいかないのは他の誰かのせい

思考の例:「勉強に集中できなかったのは、いつも弟が邪魔したからだ!」

②「正義」タイプ

感じた気持ち:怒り・嫌悪・憤慨(ふんがい)

裏にある考え・認知:公平でなければならない、正しくなければならない

思考の例:「あっちのクラスは直前でやったことが出たんだって、ずるくない?!」

③「敗北者」タイプ

感じた気持ち:劣等感、憂うつ、敗北感

裏にある考え・認知:自分は他人より劣っている

思考の例:「やっぱりやってもできないんだ・・・」「やっぱり私はバカなんだ・・・」

④「無関心」タイプ

感じた気持ち:無関心、脱力感

裏にある考え・認知:そのうちどうにかなる、将来のことは考えたくない

思考の例:「別に」「興味ない」「どうでもいいし」

⑤「あきらめ」タイプ

感じた気持ち:無気力、脱力感、不安

裏にある考え・認知:自分にはできない、不可能である

思考の例:「もうあの高校無理」「数学で●●点とかとれるわけない。」

⑥「心配」タイプ

感じた気持ち:不安、おそれ

裏にある考え・認知:今後もうまくいかないだろう、きっと大変なことになる

思考の例:「絶対、次もっと下がるよ・・・」「不合格になったらどうしよう」

⑦「罪悪感」タイプ

感じた気持ち:罪悪感、不安、焦り

裏にある考え・認知:全て自分自身が悪い

思考の例:「自分の努力が足りなくて、皆の期待を裏切っている」

手順2.最大の山場!自分の考え・認知を検証してみる

ここが、最も大事なワークです。

ワーク③

ワーク②で浮かんだ考えやイメージが「正しい」といえる根拠や証拠、「誤っている」といえる根拠や証拠をそれぞれ挙げましょう。

考え・イメージ:「                                      」

1・正しいといえる根拠:「                                      」

2・誤っているといえる根拠:「 

考え方や認知には、動かしがたい事実に基づいたものもありますし、主観的な思い込みにすぎないものもあります。

辛さを生み出す考え方には、悲観的な「外的」「永続的」「普遍的」にとらえる考え方や、さまざまな思い込み・認知の歪みパターンがありましたね。

完全なる事実に基づいたネガティブな考えはプラスの側面も考えた上で受け入れる。推測や思い込みに基づいたネガティブな考えは、それがどの程度正しく、どの程度誤っているのかを検討するのがこのワークです。

思い込みは、その度合いが強いほど「考えに反する事実が見えない」という特徴があります。

なかなか気づけない「誤っているといえる根拠」をどのくらい見つけられるかが、最大の山場です。

ネガティブな考えを持つ自分と、そうでない自分に分かれ、ネガティブな方の自分に対して思い切り反論して論破するくらいのイメージで、徹底的にやっつけてください。

色々な思い込みのパターンに応じた例を挙げますので、参考にしつつ、自分でワーク③を完成させてみてください。

◎ワーク③の参考例

心配タイプ、あきらめタイプの例

<状況>

偏差値が下がった

<考え・イメージ>

「絶対次も偏差値下がるよ・・・」「合格は無理だ・・・」

<考え・イメージが正しいといえる根拠>

「今までで一番勉強した」,「宿題を全部やった」,「先生がこれ以上偏差値下がると危ないと言っていた」

<考えイメージが誤っているといえる根拠>

「最近勉強していない内容が出た」,「宿題以外はやっていなかった」,「危ないと言っていただけで、今の偏差値で合格者がいないとは言っていない」,「志望校内での順位はほぼ変わっていない」,「全ての科目が下がったわけではない」,「実力は急には下がらない」

非難タイプ、正義タイプの例

<状況>

偏差値が下がった

<考え・イメージ>

「偏差値下がったのは兄弟がいつも邪魔するからだ!」,「自分より下の志望校を目指しているA君より、高い偏差値でいるべきなのに・・・」

<考え・イメージが正しいといえる根拠>

「勉強しているときいつも、弟が遊んでいる声がうるさくて集中できない」,「親から兄弟の面倒も見てあげてと言われている」,「周りの友人はみんな静かな部屋で勉強している」,「高校の合格偏差値目安一覧表だと、私の志望校はA君より3ポイント高いと書いてある」

<考えイメージが誤っているといえる根拠>

「兄弟がうるさいのはいつもではなく、2700分やっている1週間の学習時間のうちの5分の1」,「面倒見てあげてと言われているが、どの程度かは言われていない」,「静かな環境で勉強していても、結局集中できていない人も結構いるはず」,「目安一覧表は平均なので、そこより高い人もいれば、低い人もいる」,「集中力が足りないのは、今に始まったことではない」,「集中できないのは、数学の勉強をしているときだけ」

罪悪感タイプ、敗北者タイプの例

<状況>

偏差値が下がった

<考え・イメージ>

「応援してくれた人々に申し訳ない・・・」「不合格になったら、色々な人にバカにされる・・・」

<考え・イメージが正しいといえる根拠>

「兄弟がいるのに塾に通わせてくれた」,「友人や先生がいつも頑張ってねと言って応援してくれている」,「友人が、あなたなら絶対●●高校行けるよ!と期待してくれている」,「成績やテスト結果が悪かったとき、いつも怒られたり、からかわれたりした」,「兄が不合格になったとき、家族が暗い雰囲気になった」

<考えイメージが誤っているといえる根拠>

「偏差値が下がったからといって不合格が確定したわけではない」,「不合格になったからといって、全員がからかうわけではないだろうし、むしろその人が炎上するかも」,「私なら不合格になった人を励ます。私にだけ励ましてくれる人が誰もいないとは考えられない。」,「以前までは大してホンキで勉強していなかったから、怒られていた。そういえば最近は、勉強しろと言われていない」,「暗い雰囲気になったというより、落ち込んでいる兄をそっとしてあげていたのではないか」

いかがでしょうか。

赤字の部分は、事実というより推測に近い考えですが、誤っているといえる根拠としてならばフル活用して構いません。目的は、大暴れしている辛い考え方(正しいといえる根拠の方)を弱め、活躍できていないポジティブで楽になれる考え方(誤っているといえる根拠の方)を強めることです。

いざやってみると、最初は根拠がなかなか思い浮かばないものだと思いますが、繰り返しトレーニングすることで出るようになりますし、身近な人と一緒にやって根拠探しを手伝ってもらっても構いません。

手順3.新しい考え方を作ってみよう

次のワークです。

ワーク④

ワーク③の根拠がそれぞれどの程度信頼できるかをパーセントで表し、それをもとに現実的でバランスのとれた考えを作ってみましょう。

以前の考え・イメージ:「                                      」

正しいといえる根拠の信頼度:「    」%

誤っているといえる根拠の信頼度:「    」%

新しい現実的な考え・イメージ:「         

信頼度をつけてみると、どちらかが100%でもう片方が0%という極端な結果になることはあまりないと思います。正しい側、誤っている側、それぞれそれなりに根拠があるということが多いでしょう。

ですから、両面を併せ持った考え方が現実的、実際的だということになります。こちらも例を参考にして、自力で作成してみましょう。

◎ワーク④の参考例

※状況や考え、根拠はワーク③の参考例と同じだとします

心配タイプ、あきらめタイプの例

<現実的な新しい考え>

「次の模試は下がるかもしれないし、そうでないかもしれない」,「偏差値が下がったのは残念だが、入試で同じ問題がでたらできる様にしておけばよい」,「今後の偏差値が読めないので、合格できるか不合格になるかは分からない」

非難タイプ、正義タイプの例

<現実的な新しい考え>

「兄弟が邪魔してもそうでなくても、常には集中できないかもしれない」,「A君の実力だと彼の志望校が低いだけかもしれない、そもそも他人のことより自分のことに集中した方がいい」

罪悪感タイプ、敗北者タイプの例

<現実的な新しい考え>

「今は心配させているかもしれないけれど、期待に応えたことも多々あったからプラマイゼロ」,「本当にバカにされるかもしれないし、そうでないかもしれない」,「バカにされたら悔しいけれど、身についた実力は減らない」

手順4.新しい考え方の効果を測る

ワーク④で作った新たな考えはどのくらい納得できるものになりましたか?

十分納得できるものならば、「最初に感じたネガティブな感情」はそれなりに軽減したはずです。

それでは最後のワークです。

ワーク⑤

ワーク④で作った新たな考えはどのくらい信頼できるものですか。また、それによってネガティブな気分はどのくらい軽減しましたか。最初のネガティブな感情を100%としたら、今はどの程度でしょうか。

新たな考えの信頼度:「    」%

最初のネガティブな感情の現状:「    」%

ネガティブな感情が10%でも軽減していれば効果ありです。50%、つまり半減していれば大成功です。さらに、30%まで軽減していれば、もう過度なネガティブからは脱している状態です。もしこの%が下がらない、または、下がりが弱いようであれば、新しい考え方の納得度が低いか、取り上げたネガティブな感情にマッチしていないことが原因でしょう。

ネガティブ感情の裏に張り付いている<考え・イメージ・認知>が他にないか、誤っているといえる根拠が他にないか、推測が強すぎたりしていないかなど、ワーク②に戻ってさらにブラッシュアップしてみてください。

ストレスには重要な価値がある

さて、受験生の心理的セルフケアについて、4回に渡る長期でお伝えいたしました。

本稿では、比較的短期に効果が認められ、安全で、セルフケアも可能な『認知行動療法』という技法をベースに、受験生向けに簡易化してアレンジしたケア方法をご紹介いたしました。興味を持たれた方は『認知行動療法』についての漫画や本がたくさん出版されていますので、受験が終わったら是非読んでみてください。

受験期は模試や宿題、テストの出来具合、周囲の人の言動に気分が乱されがちですよね。

そういった状況は今後も恋愛・仕事・育児・介護など、「何かを成し遂げるための自信」や「人間関係」に関する様々な場面で遭遇するでしょう。

そのとき、過度に恐れ緊張するのはなく、また重要性が理解できずぽかんとするのでもなく、適切なプレッシャーとしてコントロールしながら結果を出し、問題解決できるようになることがベストですよね。

受験期に感じる多くのストレスは、心の筋肉とでも言うべきレジリエンスを鍛えるためのバーベルや鉄アレイの役割を担っています。少年期のままの心のままで、いきなり成人期のストレスに耐えることはできません。成長が必ず必要になります。

また、自分の力を高めても、他者は必ずしも思い通りの言動をしてくれるとは限りませんよね。色々な考え方や正義感を持った人がいて、ストレスを感じることもあります。これも、小学校、中学校、高校と進学するにつれて、より幅広い地域から多様な人が集うような仕組みになっています。

受験と進学に関する仕組みは実によくできていて、少しずつ大人になるための準備や成長ができるようになっています。変な言い方ですが、皆さんの精神的な成長にとって充分に価値あるものと言えるものです。

受験まで残り2ヶ月となりました。皆さんがストレスと適度に、上手につき合い、より柔軟な心を持ちながら、本番で力をしっかり出し切れることを強く願っております。

(湘南ゼミナール進路情報戦略室/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント 秋山清輝)

《参考文献》

「認知行動療法実践ガイド(ジュディス・S・ベック,2015,星和書店)」

「認知行動療法カウンセリング実践ワークショップ(伊藤絵美,2015,星和書店)」

「うつと不安の認知行動療法練習帳(デニス・グリーンバーガー&クリスティーン・A・バデスキー,2001,創元社)」

「受験生こころのテキスト(元永拓郎・早川東作,2006,角川学芸出版)」

「生き方を支える進路相談(飯野哲郎,2009,図書文化)」

「オプティミストはなぜ成功するか(マーティン・セリグマン,2013,パンローリング)」

「子どもの逆境に負けない心を育てる本(足立啓美・鈴木水季・久世浩司,2014,法研)」

いかがでしたか。

今まさにストレスを感じている方にとって、ストレスの価値など到底実感できるものでないかもしれませんが、4回分の記事を読まれた方は、多少なりともそれをプラスにできる希望を感じられたのではと思います。

寒波襲来&年末年始

体調と生活リズムに気をつけながら、冬期講習を駆け抜けましょう!